RB26DETT
GTRマガジン編集長のマリモさん(通称)とは、
レーシングドライバーの谷口信輝さんの関係で知り合いました。
ドリフトやチューニングで著名だった自動車雑誌ヤングバージョンは、
マリモさんが編集長を交代した後、
時代の背景もあって残念ながら廃刊になってしまいましたが、
当時、D1ドライバーだった谷口君とは取材関係も含めて密で、
(すみません・・・、以降、「谷口君」で・・・。
彼も「さん」では背中が痒くなっていると思いますので・・・・)
自分も会話を交わすようになりました。
それでも、
趣味とか社会情勢とか下ネタとか・・・
仕事関係については皆無でした。
GTRマガジンの編集長になってからも同様だったある日、
「スカイラインGTRは、扱わないのですか?」と
珍しくその関係の会話が混じり、
「GTRマガジンとは違うことをしています。」 (笑)
不思議な返答をしたことがありました。
スカイラインGTRのエンジンRB26DETTと言えば
高回転でのトルク!
ハイパワーが主流のエンジンですが、
いろいろありまして(後にどこかでご紹介させてください・・・)
R35エアフロやイグニッションコイル、インジェクターの流用で
燃費や中低速での扱いやすさなどに執着している状況は、
GTRマガジンの対象外だと思ったのです。
時速100km/hを5速で2000RPMくらい
その領域での走りやすさや燃料向上の実現は、
とても大事と考えていました。
モータースポーツではなく、
日常使用を重視した
でも、個人的に目指した方向性です。
スカイラインGTRのオーナーさんには理解頂けると思いますが、
高速道路で時速100km/hを5速で走行時、
エンジン回転数は2000RPMより少し上では、
ちょっとした上り坂になるとトルク不足を感じ、
ギアを4速に落とすのが通常です。
ですが・・・、そのまま走行できないものだろうか?
可能であれば、運転は楽になり、
燃費も向上しそうです。
自分がBNR32を新車で購入した頃、
長い長いローンのお世話になりましたが・・・、
ROMチューンを自らがでできないため、
某社製のチューンされたプログラムのコンピューターを購入、
わくわく君でドライブに出かけたことがあります。
インジェクターを大きくしていたこともありますが、
中低速はノーマルの方がはるかに扱いやすく、
そして・・・・みるみる減っていくガソリン残量に
「速いのは速いけど・・・」と、涙したことがありました。
しかし、スカイラインGTRとは、そのような車なのだ!
と自らに言い聞かせていました。
その意識が理由で、
エコカーのようなスカイラインGTRを目指している状況を
「GTRマガジンとは違う方向・・・・・」とお伝えしたのですが、
マリモさんからは
「なにそれ?面白い!」と予想外の反応がありました。
後に伺った話では、「違う」とか「関係ない」とか言われると
逆に「沸く(わく)」のがメディア人の性格だそうです。 (笑)
右ハンドル車の輸入を禁止しているアメリカ-の法律は、
クラシックカーについて例外的にOKとしています。
「25年ルール」と言われるその法律は、
生産から25年経過した車両をクラシックカーとして定義していますが、
これにスカイラインGTR(BNR32)が該当したため、
突然、BNR32のアメリカへの輸出が活発化しました。
これまで雑誌やネットでしか見ることができなかったスカイラインGTRは、
アメリカではフェラーリ以上の注目度らしく、
ちょうどGTRマガジンに取り上げてもらった頃から
アメリカ需要が増え始め、価格が高騰しました。
価値が上がると、貴重度も上がり、
より大切に扱うのはどこでも同じで、
大事に壊れないように乗るオーナーさんが増えました。
そのような環境下では、
「乗りやすくて壊れないスカイラインGTR」は、
実は「今風」だったのかも知れません。
しかし、修理のための部品価格は高騰するばかりです。
修理のための部品保有期間のメーカーへの法的な義務は、
生産中止から7年と定められています。
例えば、BNR32の場合、
VスペックⅡ/1996年(平成6年)を最後のBNR32と考えると
2003年・・・・・
今から17年前にはすべての補修部品の製造を中止しても法的にはOKです。
価格は上がりますが、
長く作ってくれた日産に感謝すべきところかも知れません。
「そのままずっと作ってくれればいいのでは?」
実は安易に考えたりしたのですが、
生産した部品の保管場所
生産するための機材の確保の維持費と場所、
そして、生産した部品類は資産として計上されるため
作るほど課税されてしまう経理的な事情など、
長期生産での生産側の負担とリスクは大きく
値上げは仕方ないと思うのですが、
しかし・・・・、
最近の部品の価格設定はなかなか厳しいです・・・・。
「ヘリテージ」という言葉、
英語で「遺産」の意味があり、
実は同じ「遺産」でも「レガシー」という単語もありますが、
「ヘリテージ」は「先祖伝来の遺産」
「レガシー」は「後世に残すべき遺産」
RB26DETTの部品の歴史を継いで継承しましょう・・・
そのような意味で、それでも、
2020年の9月には7万円代だった純正のBNR32の燃料ポンプが
10月を過ぎて12万円(税別)に値上げされ、
2021年の9月には、20万円を超えました。
そこで、ニスモの製品で燃料ポンプを購入すると
半額強で対応できる裏技があったのですが、
後にニスモも15万円に値上げ・・・・
(BCNR33用は23万円ですが・・・・)
高年式の車両維持には、金銭的に苦難が多いです。
その対策として、
保管費用等の負担が少ないR35部品の流用ができれば
出費を大幅に抑えるとともに、
まさかの生産中止に対応することも可能。
使えたら利点は多いと考えました。
RB26DETの純正エアフロは
自分の経験則では、とても脆弱です。
以前は単品で¥20000以下でしたが、
2021年9月現在では¥50000を超えています。
価格と合わせて性能も上がるのであれば納得もできるのですが、
もちろん内容はそのまま、コスパの悪化は激しくなるばかりです。
ブローバイやタービンからのオイルの吹き戻しで壊れることも多くエアフロは、
短期間で再破損すると泣きそうになります。
そのような純正エアフロでも新品に交換すると
明らかにエンジンフィーリングが良くなります。
理由は、センサーから汚れが消え、素子の消耗がリセットされ
空気量の読み取り速度と精度が上がり、
それが、燃料や点火時期のマップに反映するからです。
「正しい燃料噴射量」と「正しい点火タイミング」の実現ですが、
逆の考え方をすれば、
エアフロが痛んだ状態では、適正な空燃比や点火時期ではなく、
エンジンへの負担が増す可能性も出てきますが、
それでも壊れる実例が少ないのは、
コンピュータープログラムのマップ上の数値に
事前に余裕が与えられているからと考えられます。
点火時期を進める・・・という言葉があります。
ピストンが上死点と呼ばれる最も高い位置にある時は、
圧縮行程の最後か、排気行程の最後になります。
吸い込んだ空気と燃料の混合気を最も圧縮した状態か、
爆発後の燃焼ガスの排気を最も行った状態のどちらかです。
圧縮行程でのプラグの点火は
ピストンが上死点のタイミングと考えられがちですが、
実はそれよりも少し手前が正解です。
圧縮上死点でプラグが点火した場合、
爆発が広がる行程でピストンは下がり始め圧縮が落ち、
大きな爆発力を得られないことが理由です。
そこで、爆発が最大になった状態と上死点を合わせるため
プラグの点火時期は上死点よりも少し手前に設定されています。
どれくらい手前・・・・の数値は、
ピストン速度と空燃比によって変化します。
(他にも要件はあります・・・)
ピストンが速ければそれに合わせて
上死点で最大爆発を一致させるため、
都合の良い点火時期は早くなりますが、
ターボやスーパーチャージャーが装着された
自然吸気以上に空気と燃料が入るエンジンでは、
空気や燃料の分子密度が上がり、
高いエネルギー下で燃焼速度が急激に速くなるため、
同じ考え方での点火時期では
ピストンが上死点に到着する前に燃焼が完了してしまいます。
全速力で上がって来るピストンにカウンターパンチのように
爆発がぶつかる状態がノッキングと呼ばれる現象ですが、
エンジン内部に大きなダメージを与える可能性が高いのです。
余談ですが、
低いエンジン回転数でのトルク不足の状態で
高いギアの走行を行う時に発生する
エンジンがカチャカチャと揺れる現象をノッキングと呼ぶことがありますが、
それはチャタリングで、
ノッキングに比べエンジンへの負担は小さいとされていますが、
ハイチューンの軽量化を極めたエンジンでは、
これが原因で壊れた事例もあります。
ターボエンジンでは、
燃焼速度が自然吸気エンジンよりも上がり、
点火時期を遅らせる調整が必要な箇所が発生します。
エンジンコンピューターのプログラム内には、
点火タイミングを制御するためのマップがあり、
エアフロから届いた空気量を電圧換算した軸と
エンジン回転数信号の軸による表には、
トルクを得つつ、ノッキングに対応する数値が並び、
これによってエンジンは適正に動いています。
しかし、エアフロが消耗したり汚れたりすると、
実際とは違う空気量が数値としてコンピューターに伝えられ、
マップ上での正しい場所を選択できず、
間違った空燃比や点火時期でエンジンが動くケースがあります。
それでも、あちこちで壊れない理由は、
そのくらいの誤差の発生を想定した
余裕のある数字がマップ上に並んでいるからです。
BNR32は、平成元年に初代が発売されていますので
装着されている純正エアフロは昭和の設計です。
当時としては最先端でも、今は過去の良き部品であり、
先のような理由からエンジンへのリスクが上がります。
R35エアフロを導入した当初の理由は価格でした。
価格が上がるばかりの純正エアフロメーター、
故障診断機で「エアフロ異常」と表示されると、
「また・・・・」とがっかりします。
説明にも苦慮してしまいます。
「もしかすると短期間でまた壊れるかも知れない・・・・」
作業前から言い訳をしているみたいです。
しかし、R35エアフロは、
純正の5万円強(2021年現在)から比べれば1万円強、
耐久性も高く、
これが使えれば価格面でのメリットは大きいのは間違いありません。
。
R35エアフロ使用で流れが変わったきっかけは、
データーの入力ミスでした。
インジェクターは容量が大きいほど
たくさんの燃料が同じ時間内に噴射されます。
550cc表記のインジェクターを
850cc表記のインジェクターに交換した場合、
噴射時間を550/850倍にする必要があります。
(実際にはさらに細かい計算と調整が必要ですが・・・・)
友人のBNR32に
R35エアフロ、インジェクター、コイルの
流用施工を行っていた際、
その前の850ccインジェクターのプログラムを
間違えて入力したことがありました。
エンジンを始動し、
まずは様子をみるために一般道に入って、
この車のためのプログラムを作成していないことに気がつきました。
新たな車両のプログラムを作成する時には、
プログラムにオーナーさんの氏名や車の仕様を
後の識別のために名前をつけるのですが、
そのプログラム名を作ったの記憶がなく、
「あ!」
850cc仕様だ・・・・。
これは・・・・これは危ない。
このままアクセルを踏んだら、
高回転でガス冷却が足りず
エンジンにダメージを与える可能性が・・・・。
エンジン回転数を上げる前に、気がついて良かった・・・・・。
ガス冷却とは燃焼に必要な量以上に燃焼室に入った燃料が
酸素不足で燃焼できず、
気化する際に燃焼室の温度を下げる現象です。
殺虫剤のスプレーを使った後に缶が冷たくなるのと同じ理屈ですが
これによって燃焼室の金属部品の融解や変形を防ぎ
燃焼速度を安定させノッキングも抑制しています。
間違ったプログラムで走行しているのに気づき、
とにかく帰ろう・・・・
ゆっくり帰ろう・・・・
メインの道路を通ると交通のリスクもあるので
裏道をゆるゆると走りながら、ふと・・・・思いました。
なぜ、エンジンが始動したのだろう???
そして、これまで経験したことのないくらいスムーズで走りやすい・・・。
通常の噴射時間でのプログラムよりも明らかに低速なのにトルク感が良い・・・、
これ、なに?!
不思議が頭の中でいっぱいになりました。
異常な空燃比にも関わらず走りやすかったBNR32。
燃料噴射時間による計算上では、
エンジンが安定して動く数値ではなく、
空燃比計での表示も理想空燃比よりも大幅に薄い数値でした。
また余談ですが、
理想空燃比という言葉、
初めてこの言葉を聞いたとき、
理想的な空気と燃料の割合だと思いました。
理想的とは・・・・
最もパワーが出る・・・・の意味だったのですが
実は、この空燃比は、
触媒が排ガスを最もきれいにできる理想値で
パワーが出る空燃比は別に存在するのです。
触媒は、窒素酸化物と一酸化炭素を主にきれいにするのですが、
この二つの物質は空燃比の大と小でそれぞれが比例して増えるため
片側は減ると片側が増えてしまう関係にあります。
どちらかが多いと触媒が困るので
どちらもまずまず減る中間どころが、
有効に排ガスをきれいにできる領域で、
その意味での理想空燃比だったのです。
アイドリング時には
この理想空燃比の値が一般的ですが、
850ccのプログラムでは、
噴射量が多い分、噴射時間を減らしていますので
燃料の割合が薄い状態になり、
エンジンの始動ですら難しいはずなのに
普通に始動し、普通にアイドリング
この現象は、R35部品との関連があるのだろうか?
これらは、その後の課題となりました。
先にも少し触れましたが、ガス冷却について、
説明が重なりますが・・・。
燃焼室は密閉された空間ですので酸素量は限られています。
燃焼可能な酸素量必要以上に供給されたガソリンは当然燃焼できず、
爆発することなく気化しますが、その際、
温度を奪う現象を利用した燃焼室内の冷却方法がガス冷却です。
レーシングカーがマフラーから炎を放つのは不完全燃焼ではなく、
このガス冷却に使用された燃料が酸素の多い外気に触れ
着火に必要な熱が残っている時に発生する現象で
アフターファイアとも言います。
マフラーからの炎をバックファイアとも言われますが、
バックファイアはカムシャフトや点火等のタイミングのズレで
ガソリンがエアクリーナー側に戻り再燃焼する現象で
インジェクター主流の今ではほとんど無くなってしまいました。
女性よりも男性の人数が多い出会いを探すパーティで、
パートナー獲得に失敗した男性は
不満のオーラを発して場を冷たくします。
女性が酸素で男性が燃料と考えると
この現象はまさにガス冷却で
パーティ会場から外に出た男性が
「うわー!おもしろくない-っ!!!」
と・・・爆発するのがアフターファイアです。
そして、パーティ出口の通路で
パートナー獲得に失敗した男性の数の計測で
男女のバランスがおおむね分かるはず・・・
この理屈を使った機械が空燃比計です。
以前、GTRマガジンの取材で
この「たとえばなし」をしたのですが
誌面で採用されることはありませんでした・・・。
的確で分かりやすい表現だと思うのですが・・・・
この燃焼室の冷却ですが
余ったガスが気化熱で燃焼室から熱を奪う以外に
もう一つ、別の手段があります。
熱源はガソリンですからガソリンの量を減らす手法です。
この方法であれば、
冷却のための燃料が不要になり燃費向上のメリットもあります。
燃えるものが減れば、当然、燃焼温度は下がりますが、
的確な空燃比や着火タイミング等が必要です。
中途半端に薄い場合は高温に、
薄すぎると着火できない
不安定な着火タイミングで
スムーズさを失うこともあり、
調整の精度が重量になります。
ガス冷却の方法では、
特に燃費面でのデメリットが大きく、
燃え残ったガソリンが燃え残った空気と再燃焼し、
排気側のバルブやタービンを熱で傷めることもあり、
そして、過度の冷却では、
燃焼温度が下がりすぎ、パワーダウンにもつながり、
余ったガソリンがシリンダー内壁の油膜を希釈し
オイルレス状態を作ってしまうこともあります。
先の燃料が薄い状態での低回転での高いトルク、
軽く走れた理由は、必要以上に投入したガソリンによる
燃焼低下が無くなったことにあると思いました。
それにしても、なぜエンジンがとても薄い数値で
普通に始動したのでしょうか・・・。
テスト的に純正のエアフロが装着されたBNR32で
同じ数値でテストしたところ、
スムーズにゆっくり走行できませんでした。
始動が難しく、アクセルを合わせてがんばって始動しても
トルク感がまるでありません。
しかし、同じデーターでもR35エアフロでは、
ノーマルよりも軽快で滑らかに走行できるのは、
燃料と点火の正しい組み合わせにあるようです。
上手に調整すれば、中低速を扱いやすくすると同時に
燃費を向上させる可能性を予想させました。
中低速が扱い難く燃費が悪いとされているRB26DETTは、
エンジン本体ではなく制御系に原因があり、
エアフロの性能と
それを前提とした制御マップを改善すれば、
いろいろな領域での性能アップが期待できることになります。
ところでこのマップについて、少しご説明です。
マップ=地図 ですが
エンジン回転数を縦軸に
エアフロ電圧を横軸にしたマス目に個々の数値が入っています。
例えば、
エンジン回転数とエアフロ電圧が最小の位置は
基本的にはアイドリングです。
アクセル全開でレブリミットまで回転が上がった状態では
高いエアフロ電圧と回転数の位置、
そこからシフトアップする際は、
回転はある程度高い、エアフロ電圧は低い位置になります。
マップは、エンジンを動作させる際の登山のようなもので
任意のコースから山頂を目指しても対応できる数値が入っています。
山頂まで行かず、途中下山でももちろん大丈夫です。
それぞれの地面に燃料噴射時間や点火時期が刻まれていますが
問題はエアフロの劣化や、性能の低さによって生じる
実際に歩いている位置と踏んでいる地面とのズレです。