オリジナルのFPCMのご説明です。
いつものように余談と脱線も交えて長くなりそうですが
興味のある方のご一読、
よろしくお願いいたします。
(R’sミーティングで配布のリオマガジン009からの抜粋です)
日産が生産を中止し故障事例が増え、
部品調達にとても困っているのがFPCMです。
FPCMは、(Fuel Pump Control Module)のイニシャルを連ねた名称で、
直訳は「燃料ポンプを制御する部品」です。
RB26DETT系の燃料ポンプは、ガソリンタンク内に固定されています。
燃料によるポンプの冷却、燃料の重さ(水圧)を圧送に利用、
タンク外への取り付けでの泥や錆によるポンプへのダメージを
抑える効果もあります。
スカイラインGTRやステージア260RSでは、
イグニッションONで、車両後方から2種類のモーター音が聞こえます。
1つはアテーサE-TSのモーター音です。
車両と状態による個体差はありますが、
アテーサ駆動のための油圧が3.8Mpsに達するまで2~5秒間続きます。
もう1つは燃料ポンプです。
イグニッションキーONから約3秒、
ECU(エンジン制御コンピューター)からの信号で動くように設定されています。
ポンプがガソリンタンクから燃料を圧送し、
フューエルインジェクターまでに圧力を貯める動作を行っています。
ECUからの信号で燃料ポンプリレーが作動し、
燃料ポンプのプラス側に電気を送り、
同時に燃料ポンプのマイナス側では
FPCMが回転数を制御する動作を行っています。
つまりFPCMは、電気の流れを邪魔している事になります。
燃料の流れは、
燃料ポンプ(ガソリンタンク内)⇒
燃料フィルター⇒
インジェクター(6個)⇒
レギュレーター⇒
ガソリンタンクに戻ります。
インジェクターの使用量より多くのガソリンが供給され、
使われなかった燃料がガソリンタンクに戻る部分的な循環構造です。
燃料の通過により熱をガソリンタンクに運び
インジェクター関連を冷却する効果があります。
エンジン上部にあるインジェクターなどの部品類は過熱されやすく、
特に燃料パイプは、モータースポーツなどでの激しい使用では、
液体である燃料が噴射前に沸騰し、
気化した状態でインジェクターから噴射される状態では、
燃料不足による始動不良や失火、
希薄燃焼でのエンジンブローに至るケースもあります。
しかし、この冷却工程は、望ましくない現象も発生させます。
エンジンルーム内の熱を燃料がガソリンタンクへリターン工程で運ぶ事で、
タンク内の温度を上昇させてしまいます。
加熱によって膨張したガソリンは、
沸騰気化よりはマシですが同じ体積での分子の数が下がるため、
インジェクターから同じ時間制御で噴射された状態では、
実質的なガソリンの量を減少させてしまいます。
密閉されたシリンダー(燃焼室)内では、
酸素の量に対して燃焼できるガソリンの量に上限がありますが、
燃焼できないガソリンを意図的に増やし、
余ったガソリンが気化熱でシリンダー内の温度を奪い、
バルブやピストンなどの金属部品を熱融解から守る「ガス冷却」が行われています。
ROMセッティングでは、
この燃焼温度の管理がプログラムの数値を決める重要な条件の一つですが、
冷却を優先させて燃料を増やし過ぎると、
燃焼温度が下がり過ぎ、パワーと燃費を低下させてしまう事もあります。
インジェクターは水道の蛇口と同じで、
燃料の通路の開閉を行っているだけで、
インジェクター本体に燃料を噴射させる能力は無いため
燃料の圧力によって噴射量が変化するため、
圧力を作る燃料ポンプの正常な動作は、
エンジンのトルクや耐久性に大きく影響する事になります。
燃料の必要量は、エンジン回転数や過給圧などによって変化します。
回転数が低く空気が少ない負圧状態のアイドリングでは、
必要量が少ない状態のため、
燃料ポンプの回転数を低く調整するようになっています。
ポンプの回転制御による効果として、
ガソリンタンク内の温度上昇の抑制は先の通りですが、
燃料ポンプのモーターの回転部品の消耗を抑える効果もあります。
「キーオンで始まるウィーーーンの音が良いのだ!」
バッテリー直配線でのアイドリング時からポンプが全開の状態に、
そのようなマニアなご意見もありますが、
高出力が連続する競技の世界では有りですが、
耐久性や熱抑制を兼ねた低い回転の静かさも良いものです。
燃料ポンプの回転制御で最もシンプルな方法は、電気抵抗器(レジスター)です。
モーターのマイナス側にレジスターを直列に接続し、
通電を妨げてモーターの回転を落とす方法はシルビアで採用されています。
アイドリング時を含めた低いエンジン回転域では抵抗が入り、
速度が上がると回路が切り替わり直通状態(レジスター無し)になります。
シンプルで故障が少ない構造ですが、
レジスターからの発熱はエネルギーの無駄で2段階での制御にも難しさがあり、
純正制御での燃料ポンプ制御の切り替えのタイミングでのトルクダウンに対して、
モータースポーツでは、レジスターを取り外しカプラーを直結、
フューエルポンプを常時全開にする手法が流行りました。
しかし、先の理由からポンプへの負担は大きく、
ガソリンタンクの熱対策も合わせ、
できれば3段階、そして滑らかな回転数の移行ができる手法が
スカイラインGTRで採用された「デューティー制御」です。
昔の扇風機、3段階スイッチの「ガチャ」の感触は、
若者の皆さんはご存知ないかも知れません・・・。
機械的に強中弱に切り替わる扇風機のスイッチは幼少期は「強」一択でした。
暑い夏、エアコンが無い時代に「弱」など無意味です。
ところで、扇風機の「強」のボタンを押した状態で、
他のスイッチや羽根に触らず回転数を落とすにはどのような方法があるでしょうか?
小学生の頃、扇風機と扇風機を向かい合わせに置き、
双方から強風を当て戦わせた事がありました。
ずっと続けていると片方の扇風機の回転が弱まり、
円筒形のモーター部分が熱くなり動かなくなりました。
父親は爆笑、母親は激怒、遠い昔の辛い記憶です。
これ以外で回転を制御する方法として「コンセントの抜き差し」があります。
一定時間内でのコンセントを差し込んだ時間の割合が多いほど
扇風機の羽の回転数は上がります。
これがデューティー制御のとても乱暴な説明です。
この制御方式は専門用語ではPWM制御と言います。(Pulse Width Modulation)。
(続きます)