VR38DETT
10年以上前の話です。
BNR34からR35に買い換えた常連さんから、
「青信号で進もうとしたら、ギアが入らなくなりました!」
と・・・電話がありました。
いきなりギアチェンジが不能になり、
パドルシフトでもATモードでも反応がなく、
道路の中央側で動けなくなったそうです。
当時、リオではR35については情報も技術も無く、
ありがちな対策
「キーをオフにして、しばらく待ってオンにしてみる」をご提案したところ、
ローギアに入り、そのまま移動し、路肩に寄ることに成功しました。
ロードサービスで日産ディーラーに搬送されました。
後日、オーナーさんからのお話では、
高額な修理費用で直ったはずのGTRは、
その後も故障を繰り返し、
最終的には売却してしまったそうです。
「こんなことなら、BNR34を売るんじゃ無かった・・・・」
残念そうな言葉は強く記憶に残っています。
しばらく後、
静岡の富士スピードウェイで開催されたR’sミーティングに
一人で遊びに行きました。
GTRマガジン主催のGTRがたくさん集まるイベント。
当時は、後に自らが出店するとは予想すらしなかったイベント、
ですが、お客さんでの参加は恒例でした。
小学生の頃、
先生にうつむき気味に歩くクセを指摘され、
「背筋を伸ばして前を見て歩きなさい!」と言われていましたが
大人になってもなかなか修正できないもので、
富士スピードウェイの出店エリアを
下を見ながら歩いていると・・・・
テーブルの脚に立てかけるように置いた看板が視界に入りました。
「地面に・・・、地面に看板が置いてある・・・・」
看板はテントの上部や支柱などの高い位置が恒例で、
「置いてあるなぁ・・・」と思いながら
書かれた文字を追うと
「ネコ・コーポレーション」
聞き慣れた社名が並んでいました。
「え?」
リオのプログラムの原点は、
ヤシオファクトリーとネコ・コーポレーションです。
その「ネコ・コーポレーション」の文字・・・・。
顔を上げると
ネコ・コーポレーションの代表
金子社長さんがこちらを見ていました。
最後にお会いしてから10年以上、
懐かしい再開でした。
ちなみに、ネコ・コーポレーションの「ネコ」の由来は、
社長さんの苗字「カネコ」の「ネコ」です。
「久しぶりだなぁ!」
覚えてもらっていました。 (笑)
金子さんとテーブルをはさんで向かい合うような形で
久々の会話が始まりました。
ネコ・コーポレーションは一般への販売は少ないはずですが
GTRを扱う同じ業界内での情報連絡や相談などが出店の理由で、
興味深かったのが、R35についてのお話でした。
新しい車ですが、
多く導入された新しい技術には
意外と故障頻度が高く、
コンピュータープログラムを含めた特殊な対策と
チューニングの方法。
当時の自分の認識では、
R35は基本的にはディーラー以外での修理は難しく、
トラブルが発生した際は、ディーラーへの依頼が通常です。
しかし、ネコ・コーポレーションでは
データーの解析や独自の修理方法、強化対策等
オリジナルの手法を開発し、
独自の修理やチューンを可能にしていました。
常連さんの件の一か月くらい後だったので、
「R35がシフトチェンジできなくなったのですよ。」
軽い気持ちでお話すると、
「それで、そのGTRはどうなったの?」
「リオでは無理なので、ディーラーへ持ち込みました。」
「え?!どうして、俺に電話しないのよ?!」
「電話したら、どうにかできましたか?」
「できるに決まってるよ。」
「?!」
「リオで、R35を扱えるようになればいいんだよ!」
「え!」
ちょうど、リオの店舗について
立地や法的な資格取得で移転を検討していた時期でした。
そして、移転の設備や設計の変更がこの出会いによって
新店舗の設計へ大きな見直しが入りました。
R35には、クラッチペダルがありません。
そのため、AT免許でも運転が可能です。
ハイパワーでクラッチ操作が一般人では難しく
クラッチペダルレスになったという噂を聞いた事がありますが、
本当かも知れません。
しかし、AT免許で運転できても、通常のATではありません。
一般にATは、トルクコンバーターというシステムが
エンジンのパワーをミッションに伝えます。
トルクコンバーターは、液体を回転させ動力を伝える構造のため
機械的なクラッチに比べるとダイレクト感が損なわれてしまいますが、
R35GTRでは、クラッチがしっかりと使われています。
奇数ギア用に一つ、偶数ギア用に一つ、合計二つです。
それらをコンピューターが操作し、シフトチェンジなどを含めて
総合的に制御しています。
モータースポーツでは多用される強化クラッチは、
動力を伝えるためのクラッチカバーのスプリングが強力なため、
一般道では、扱いが難しく、ぎくしゃくした走りになりがちです。
ですが、クラッチを押さえる力の小さなノーマルのクラッチでは
大きな馬力や激しい環境での使用ではパワーに負けて滑ってしまい、
ドリフト等のモータースポーツ系の走行では
タイヤが路面との間で滑る前にクラッチが滑ったり、
短時間で破損するようなケースもあります。
可能であれば、
ストリートではノーマルクラッチ、
モータースポーツでは強化クラッチ・・・
そのように都度、ミッションを降ろして組み替えれば理想的ですが、
大変な労力です。 (笑)
R35では、クラッチカバーの圧着力を油圧でコントロールするため、
状況によって使い分けを行い、
意図的にクラッチを滑らせてスムーズさを優先させたり、
ハードな走行時には強化クラッチに変化させたりしています。
シフトチェンジには、パドルシフトによる操作が可能です。
一般的なパドルシフトでは
シフトダウンの操作を行った際でも、タイムラグが発生し、
操作後、少し遅れてシフトダウンが実施されるため、
サーキット走行などの秒以下での操作が必要な状況下では、
致命的と言えるほど、運転の動作を妨げます。
しかし、R35の場合は、
奇数ギア用と偶数ギア用の2つのクラッチが
バトンタッチするようにギアチェンジを行うため
瞬時にシフトダウンやアップが可能で、
モータースポーツでも安定して使用できるようになっています。
Rモードでは、
エンジン回転数を意図的に上げてシフトダウンを行う操作もあります。
ミッションはそれらの構造から
DCT(Dual Clutch Transmission)
「二つのクラッチがあるミッション」の名称です。
ちなみに、このミッションに使われる専用のフルードは
DCTFと呼ばれています。
先のR35での奇数ギアに入らないトラブルは、
初期型では特に多く、
原因のほとんどは、内部の圧力センサーの故障です。
このセンサーの数値で
トランスミッションのコンピューターは
現在のギア位置を確認し制御を行っていますが、
センサーからの信号が消失し見失う状況では
先のような「1速に入らない」の現象が発生する故障に至ります。
どうやらこのセンサーは改良され、故障頻度は激減したようですが
それでも、2017年のR35が5年で故障した事例を経験しています。
初期型で多かったその他では、バックギアが外れる故障です。
ありがちな操作ですが、
まだ惰性で前進し、車両が完全停止していない状況でバックギアに変速したり
逆に、後方に動いているのに前進ギアに入れた場合、
内部ではせん断力のような動きが発生し、
バックギアを固定しているピンが強度負けして外れてしまうらしく、
R35では、
「前進、後進ともに完全停止してからギアを入れましょう」は、
大事な注意事項です。
DCTのクラッチはフルードに浸かった状態で動作しているため
摩耗には比較的強い構造です。
油圧によるクラッチの圧着力を制御、
半クラッチなどの操作、
これらはすべてコンピューターが制御しています。
運転する人で車の動きがまったく違うように
プログラムでGTRの動作は変わってしまう事になりますが、
エンジンとミッションのプログラムの進化は著しく、
トランスミッションの2021年モデル用のプログラムは秀逸で
上書きにより車の性能が大きく変化します。
2010年モデルまでは、マイコンの容量が以降よりも小さいため
2021年モデルのプログラムに書き換えるためには
マイコンを入れ替え容量アップが必要ですが、
効果の大きさからは、このアップデートは推奨です。
このトランスミッションのプログラムですが、
おそらく2017年頃から
クラッチを意図的に滑らせ制御する範囲が増え、
走行はとてもスムーズになりましたが、
そのセッティングが理由で加速時、
4000RPM付近でクラッチが突然滑る事があります。
エンジン回転数とブースト圧によるトルク管理のための3次元マップにより
クラッチの油圧はコントロールされているため
滑りが発生する場合には、滑る箇所を数値で調整する必要があります。
全体的に油圧を上げるコマンドもありますが
これを実施すると一般道でのショックが大きくなり、
こちらのテストでは、
それでも滑りが解消しないケースもありました。
R35でのトラブル対策やチューン、メンテナンスのご相談など
お待ちしています。